学長挨拶
忘れられないターニングポイントになるであろう2011年。まずは何をおいても今回の大震災による多くの人びとの死を悼むとともに、なお立ち直れないままの人びとや悲しみを抑えて復興に向けて汗をかいている人びとに、最北の地から共感と応援を送りたいと思います。
バブル経済以降の不況から抜け出せないままであった日本は、未曾有の大災害に見舞われ、再び立ち直れるのか。政治状況を身近に見るにつけ、人びとのため息が満ちあふれ、社会全体が見通しを持てないまま日々が過ぎているように思われます。そんな中で大学はいったい何ができるのでしょう、あるいは何をすべきでしょう。何を以て時代の要請に応えていくべきでしょうか。
おそらく、研究中心か教育中心か、専門職養成中心かリベラルアーツ中心か、大都市にあるか地方にあるか、国公立か私立か、規模は大きいか小さいか、そして被災地に近いか遠いかなど、それぞれの大学によってその目標も異なってくるでしょう。本学はどうか。本学はその点からすれば、必然的に、地方から特色ある研究や教育の成果を発信し、地方で専門職養成を基盤とする大学としての成功が求められ、そのことを通じて社会貢献していくことがもっとも大きな課題となると考えています。
本学は、実学を基礎に厳しい自然と社会の風雪に耐えてきた50年余の歴史があります。時間距離こそ大いに短縮されてきたとはいえ、塩狩峠を越えてさらに北に位置するという地理的ハンディを抱えています。本学は、人口3万人余の小さな自治体によって設立されている大学であるがゆえに、さまざまな制約もあります。だが、まさにそうであるからこそ、ここに学ぶ学生に具体的な「実利」と夢を与えられるかどうか、そのことを生かした地域貢献ができるかどうか、これらが本学の発展の鍵になると考えています。言い換えれば、ここで教育や研究に従事する教員群あるいは関係者が、それらを支えるだけの力量を備えているかどうか、それを発揮していけるかどうか、これらの諸力の集まりが地域社会の今後の命運をも握っていくと思っています。ここで学ぼうとするみなさんも、その一員になります。では、われわれは入学してくる学生をどのように鍛えることを社会的使命とすべきでしょうか私は、端的に、本学がいかにタフで融通の利く専門職を生み出していくかと考えています。すなわち、一方で深い専門的知識と最先端の技術を身につけた自己主張できる能力、他方で異なった専門職連携の一員であることを受け入れ、場合によっては連携をリードできるような、幅広い知識と寛容の精神をそなえた能力、こういった一見矛盾するような特徴をもった卒業生を社会に送り出したいと考えています。そのようなことを現実化する教育・研究体制を構築することに努力したいと思っています。本学の教育環境は、これらに豊かで厳しい自然という力が加わっているという構図になりましょう。みなさんは、その中で学ぶことになります。
現代社会における子どもから高齢者や障害を持つ人びとまで、いわゆるケアを必要とする人びとの問題は、決して単一の要因からできているのではなく、複数の要因が絡み合って起きています。したがって、その解決もまた複数の方法が求められ、そうであるがゆえに、専門職間連携が求められています。本学が“売り”とする連携教育は、その意味で社会からの要請に応えるものです。しかし、看護、栄養、社会福祉、保育などの専門教育や教養教育も含め、それらは教科書的な教育、漠然とした理想を掲げているだけでは、本物の教育にはなりません。教育のある部分は、とくに教員自ら格闘する研究や臨床のおもしろさも教えることによってこそ、その息吹が学生たちの学ぶおもしろさに転化し、また教員間の共同・協働する際の葛藤の経験でさえ、“生きた教育”として、ある意味のあるものとなっていくようなものだと思います。さらに、言うまでもありませんが、今日の社会問題はすべてグローバルな影響から規定されてくることからすれば、研究や教育もグローカルであることが求められています。
このような理念の実現は、新しく入学してくる学生や現に学んでいる学生の教育環境の充実と進路先の安定的確保、そして何よりも教員の、あるいはそれらを支援する職員のプライドと不断の努力、そして市民の支援と先が見通せる設置者の力量など、それらの総合的な諸作業の継続があってこそ可能となるでしょう。この過程の中に、それぞれの構成員ひとりひとりが何らかの充実感を感じる大学こそすばらしいと言えるでしょう。
幸い、四大化以降のこれまで、関係者の努力によって、本学は順調に発展し、多くの卒業生が各地、各機関で活躍しています。また、各種の大学情報による評判にも高いものがあります。本学の歴史的伝統をさらに積み上げ、文字通り“北の寒天にキラリと光り輝く大学”、しかも“光量を増し続ける大学”であることを目指し、学生、教職員、関係者のみなさんとともに頑張りたいと思います。
名寄市立大学・名寄市立大学短期大学部 学長 青木 紀
